2025.10.08

顧客エンゲージメントとは?意味・重要性・測定指標までわかりやすく解説

「顧客との関係を大切にしたい」と考える企業は多いものの、実際にどう取り組めばいいのか悩む方も多いのではないでしょうか。
近年マーケティングの分野でよく耳にする「顧客エンゲージメント」は、まさにその鍵を握る考え方です。

顧客エンゲージメントとは、単なる「満足度」や「リピート率」では測れない、顧客とブランドのつながりの深さを示す概念です。
価格や機能の差別化が難しくなった今、顧客との関係性そのものが競争力になりつつあります。

本記事では、顧客エンゲージメントの基本的な考え方から、注目される背景、戦略設計や成果を測る指標までをわかりやすく解説します。

顧客エンゲージメントとは何か

顧客エンゲージメントとは、企業やブランドに対して顧客が持つ「愛着」「信頼」「共感」といった感情的なつながりを指します。
単なる購入や利用といった行動面だけでなく、「このブランドを応援したい」「次も選びたい」と感じてもらえる関係を築くことが目的です。

たとえば、似たような機能の製品があっても、「あのブランドの世界観が好き」「サポートが丁寧だから安心できる」といった理由で選ばれる。これが顧客エンゲージメントが高い状態です。

顧客エンゲージメントと顧客満足度(CS)との違い

顧客満足度は、購入や利用体験に対する「満足・不満足」の評価を測るものです。
一方、顧客エンゲージメントはその先にある「つながり」や「信頼関係」を意味します。
満足していても、次回も同じブランドを選ぶとは限りません。満足の上に“愛着”を築けるかどうかが鍵です。

顧客エンゲージメントと顧客ロイヤルティとの違い

顧客ロイヤルティは「継続的に購入・利用してくれる忠誠度」を指します。
ロイヤルティは結果的な行動の指標であるのに対し、エンゲージメントは「その行動を生む感情や関係性」に注目しています。

顧客エンゲージメントが注目される背景

顧客との関係性は「モノ」や「価格」だけでは差別化できない時代に入っています。企業が顧客エンゲージメントに注目すべき背景を、次に詳しく解説します。

製品・サービスのコモディティ化

多くの業界で製品・機能面の差別化が難しくなり、価格競争が激化しています。顧客は「どの商品が一番優れているか」ではなく、「どのブランドが自分に合っているか」で選ぶようになりました。その結果、企業は体験や共感による差別化が求められています。

顧客の購買行動の変化

SNSや口コミサイトの普及により、顧客は自分で情報を比較・発信するようになりました。企業からの一方的なメッセージよりも、「同じ価値観を持つ仲間」や「信頼できる発信者」の声を重視する傾向があります。顧客エンゲージメントを高めることは、こうした自然な拡散を促す基盤になります。

期待値の多様化

顧客は単に「商品を買う」だけでなく、「心地よい体験」「共感できるブランド姿勢」を求めています。価格や機能だけでなく、購入前後の体験全体を通して満足できるかどうかが、ブランド選択の決め手になっています。

顧客エンゲージメントが重要な理由

新規顧客の獲得よりも、既存顧客との関係を深めることがビジネスの成長に直結します。エンゲージメントを高めることで期待できる成果を、次で具体的に見ていきます。

長期的な関係構築による安定した収益

新規顧客の獲得コストは、既存顧客の維持コストの5倍以上かかると言われます。エンゲージメントを高めることで、既存顧客が継続的に購入してくれたり、自然と新しい顧客を紹介してくれたりする循環を作ることができます。

リピート率・LTV向上

エンゲージメントの高い顧客は、価格に左右されにくく、長期間にわたってブランドを支持します。 その結果、顧客生涯価値(LTV)が向上し、収益構造が安定します。

口コミ・紹介効果

エンゲージメントが高い顧客は、自らSNSで発信したり、周囲にすすめたりする「ファン化」につながります。これにより、広告費をかけずに自然な口コミが生まれる好循環が生まれます。

顧客離脱防止

顧客が他社に乗り換える理由の多くは「不満」ではなく「無関心」です。定期的なコミュニケーションや小さな共感体験を積み重ねることで、離脱を防ぐことができます。

顧客エンゲージメントを高めるための戦略設計

戦略を持たずに施策を実施しても効果は限定的です。顧客の行動やカスタマージャーニーを踏まえた戦略設計の考え方を、このあと詳しく解説します。

目的・目標を明確にする

「なぜエンゲージメントを高めたいのか」を明確にすることが第一歩です。リピート率向上を目指すのか、ファンコミュニティを作りたいのか、紹介を促したいのか。目的によって施策も測定指標も変わります。

たとえばBtoBなら「継続契約率」、ECなら「購入頻度」や「レビュー投稿数」など、現実的なKPIを設定することが重要です。

カスタマージャーニーを描く

顧客がブランドを認知し、購入し、利用し、ファンになるまでの一連の流れを可視化します。どの接点でエンゲージメントを深めるべきかを明確にし、「体験設計」を行うことで、狙いのある施策を打てます。

たとえば、初回購入時のフォローメール、コミュニティ参加導線、アフターサポートなど、ジャーニー上のタッチポイントごとに目的を整理します。

顧客理解を深める

アンケート、行動データ、カスタマーサポートの声など、顧客の今の感情を把握することが重要です。データだけでなく、実際の声を聞くことが、エンゲージメント施策の精度を上げます。

体験を通じて信頼を積み重ねる

一度のキャンペーンやメールでは信頼は生まれません。 小さな好印象の積み重ねがエンゲージメントの本質です。問い合わせ対応やSNSコメントへの返信など、日常の対応がブランドへの信頼を形成します。

顧客エンゲージメントを高める具体的施策

戦略を描いた後は、実際の接点でエンゲージメントを高める施策が重要です。
どのようなアプローチや取り組みが有効か、次のセクションで具体例を紹介します。

接点を増やす/質を上げる

メールやLINEでのフォロー、SNS発信、ウェビナー・イベントなど、顧客との接点を継続的に作ります。重要なのは「売り込み」ではなく、「役立つ情報」や「共感できるストーリー」を届けることです。

顧客参加型の施策

ブランドコミュニティの運営、レビュー投稿促進、ユーザー事例の紹介など、顧客が参加できる仕組みを作ります。参加を通じて顧客が「ブランドの一部」として関わることができると、愛着が深まります。

個別化・パーソナライズ

顧客データをもとに、行動履歴や好みに合わせたメッセージを届けます。たとえば、「過去に購入した製品のアップデート情報」や「誕生日クーポン」など、個に寄り添う体験が再購入につながります。

顧客との共創

アンケートで意見を聞く、ベータ版テストに参加してもらうなど、顧客と一緒にサービスを作る取り組みも効果的です。企業が「顧客の声を大切にしている」と伝わること自体がエンゲージメント向上につながります。

顧客エンゲージメントの成果を測る指標

顧客エンゲージメントは「顧客と企業の良好な関係性」を築く取り組みですが、目に見えない概念であるため「成果をどう測定すればよいのか」が課題になりがちです。

ここでは、定量・定性の両面からエンゲージメントを把握するための主要な指標を紹介します。

リピート率・継続率

最もわかりやすいエンゲージメントの成果指標は、「継続的な購入・利用」に表れます。
定期購入型サービスであれば継続率、単発商材ならリピート率の向上が、顧客との関係性が深まっているサインです。

リピート率が高い企業では、顧客は「価格」よりも「体験」や「信頼」で選ぶようになります。
一方で、リピート率が低下している場合は、購買後のフォローやコミュニケーションの質を見直す必要があります。
特にサブスクリプション型ビジネスでは、解約理由を分析することでエンゲージメントの弱点を可視化できます。

顧客満足度(CS)・NPS(ネットプロモータースコア)

顧客満足度(Customer Satisfaction:CS) は「その時点での満足度」を測るのに有効ですが、エンゲージメントを捉えるにはそれだけでは不十分です。
なぜなら、満足していても「再購入や他者への推奨」には必ずしもつながらないからです。

そこで有効なのが NPS(Net Promoter Score) です。
「この商品・サービスを友人や同僚に勧めたいと思いますか?」という1問に対する0〜10点の回答から算出し、推奨度の高さを可視化します。
NPSが高い顧客層(いわゆる推奨者)は、企業にとってロイヤルカスタマーであり、口コミ拡散や継続購入などエンゲージメントの質的な高さを反映しています。

NPSを定期的に測定し、点数が下がった時期の施策・接点を分析することで、どの体験がエンゲージメントを強め、どの体験が弱めているのかを把握できます。

顧客生涯価値(LTV:Lifetime Value)

顧客エンゲージメントを長期的な視点で見るなら、LTV(顧客生涯価値)が欠かせません。
LTVは「1人の顧客が自社にどれだけの収益をもたらしたか」を示す指標で、エンゲージメント施策の最終的な成果を測る指標と言えます。

たとえば、SNSでの関係性構築やコミュニティ運営といった施策は短期的な売上には直結しないかもしれません。しかし、顧客が長くブランドとつながり続けることで、結果的にLTVが高まります。 そのため、短期の反応だけでなく、長期的な価値貢献を追うことが重要です。


行動データによるエンゲージメントの可視化

定量的な指標に加えて、顧客の「行動」からエンゲージメントの深さを読み取ることも有効です。

たとえば次のようなデータは、関係の質を測るヒントになります:

こうしたデータをCRMやMAツールで一元管理することで、顧客ごとの関与度スコアを算出することも可能です。スコアが高い顧客はファン化しやすく、離脱リスクの低い優良層といえます。

定性的な指標も忘れない

数字に表れない部分も、顧客エンゲージメントの理解には欠かせません。
アンケートの自由回答や、カスタマーサポートに寄せられる声、SNS上のコメントなどには、顧客がどんな感情でブランドと関わっているかが現れます。

感謝」「共感」「信頼」 といったポジティブな言葉が増えているなら、エンゲージメントが育っている証拠です。逆に、「不便」「がっかり」「対応が遅い」といった不満が目立つ場合は、体験設計を見直すサインとなります。

顧客エンゲージメントを継続的に育てるために

一度高めたエンゲージメントも、放置すれば低下します。
継続的に育てるためのポイントや考え方を、このあと具体的に見ていきます。

まずやるべきこと

最初から完璧を目指す必要はありません。まずは、既存顧客との接点を洗い出し、「どのタイミングで、どんなコミュニケーションをしているか」を可視化することから始めましょう。

小さな改善の積み重ねがファン化につながる

メールの文面を少し変える、SNSでお客様の声を紹介する、アンケート結果を共有する。 そんな小さな改善を続けることで、「このブランドは自分を見てくれている」という感覚を顧客に与えられます。

ツールや仕組みで効率化する

CRMやMAツールを活用すれば、顧客データの一元管理やコミュニケーションの自動化が可能になります。 人の手だけでは難しい継続的な接点作りを、テクノロジーでサポートできます。

社内全体で取り組む文化を作る

顧客エンゲージメントはマーケティング部門だけの仕事ではありません。サポート、営業、開発など、すべての部署が顧客視点で行動する文化を作ることが、最も強いエンゲージメントを生み出します。

まとめ:顧客エンゲージメントは「関係性をデザインする」こと

顧客エンゲージメントは、一度のキャンペーンで完結するものではありません。顧客との関係を丁寧に育て、体験を通じて信頼と共感を積み重ねていく「長期的なプロセス」です。

製品やサービスが似通う今だからこそ、「どんな体験を届けるか」「どんな関係を築くか」が差別化の鍵になります。小さな接点の積み重ねが、やがて「ファン化」という大きな成果につながります。

まずは、自社のカスタマージャーニーを見直し、顧客とのつながりを再設計するところから始めてみてください。